大企業で働く方は必読

「超安定志向」の人間が大型船を降りたら人生が安定した話

乗るんだったら、船は大きいほうがいいと思った。

大きい方が安定してるだろうし、知名度もあってチヤホヤされる。

周りの皆んなも大きな船に乗りたがっている。

そんな考えで船を選んだ。

そして運良く乗れた大型船。

乗組員は1万人以上。

100年以上の歴史もある。

給料も良い。

そんな船に乗った僕は、浅はかにも人生の安定を手にしたと思っていた。

大きな船では規律に従うこと、これが何より重要

船に乗り込んで最初のミッション。

それは船員としての心構えや立ち振舞い、船の歴史や仕組みを徹底的に学ぶこと。

同じタイミングで船に乗ったのは約100人。

「この船をもっと強くしよう。」

「どの船よりも遠くに行こう。」

こんな話もたくさんした。

最初の仕事は、見習いの多くが通る道。「ボイラー係」とでもしておこう。

ここで求められたのは、ルールを徹底的に覚えること。

長い歴史を持つこの船は、決まりが多い。

決められた手順通りにボイラーを点検し、蒸気が最適な圧力や温度になるように調整する。

報告ルートはきちんと守らないといけないし、報告書も一言一句が入念に確認される。

「船のお作法を頭に叩き込み、決められたことをミスなくスピーディにこなすこと」

これが何より求められる。

すべてがルール化されている。だから巨大な船が動かせる。

しっかりと明文化されているルールの他に、文化や風習といった形で伝わる「しきたり」みたいなものもある。

『この船が長年培ったやり方が一番良いに決まってる。』

『前例がないことはリスクがあるからやらない方が良い。』

『俺が若い頃はこうだった。だからお前もそうしろ。』

こんな会話は日常茶飯事だ。

将来はこの船の船長になりたいんだろ?

機関士としてもっと専門性を高めたい。

3年間ボイラー係として働いた僕は、自然とそう考えるようになっていた。

そこへ突然の知らせ。

『明日からは航海士として甲板で働くように』

この船では機関士も航海士も関係なく、任命された役割を全うする仕組みだ。

『お前もこの船の船長になりたいんだろう。だったらいろいろな経験をした方がいい。』

船長になりたいと思ったことは一度もなかった。

でも、この船に乗った人は皆な船長を目指すべきなのだろう。

任命された役割を断る権利は、なかった。

「この船、浸水してません・・・?」

その後僕は航海士として、海図の読み方を徹底的に学んだ。

最初は全く経験もなく悪戦苦闘。でもなんとか一人前の仕事ができるようになってきた。

数年働いたある日、船の一部分が少し浸水していることに気が付いた。

『そもそも我々の担当領域じゃない。別の部隊に任せておけばいい』

返ってきたのはそんな答え。

多くの船員は気づいていた。

でも、見て見ぬふりをしている。

『この船は巨大だから全く問題ない』

と高を括る者もいれば、

『これはマズい、でも自分の力ではどうしようもできない』

と焦る人もいる。

何を隠そう自分自身、この問題に対処できるほどの力はなかった。

無論、船長も浸水していることぐらい気付いてはいるだろう。でも、そこに対する抜本的な対策はしていない。

少なくとも、一乗組員の僕にとっては対策しているようには見えなかった。

それよりも、「他の船より1mでも先に進んでいること。」

これが何より重要だ。

船長の任期はせいぜい3,4年。

その期間に船が沈まなければ、5年後10年後に船がどうなろうが知ったことではない。

船が沈んだらどうなる?

少し考えた。

たしかに、これまでこの船は抜群の安定感を誇っていた。

でも、これからはさらに海が荒れることが予想される。

沈まない保証はどこにもない。

ではそのときに、果たして自分がこの大海で生きていけるのだろうか?

この船のボイラーのことは誰よりも詳しくなった。

でも他の船のボイラーは仕様が全く違う。

海図はしっかり読めるようになった。

でもいまの時代他の船はGPSを使っている。

大型船だから揺れはほとんど感じない。

しかし外は荒波。知らないだけで、本当は既に色々なところから浸水しているかもしれない。

何となく分かっていた。

「このままだとまずい」

でも、船は大型だし歴史もある。沈むわけはない。

他の乗組員はみんなそう思っているようだった。

船の中枢で働けば、自分で浸水を止める仕事ができるはずだ。

船の動かし方も分かるかもしれない。

いつからかそんな思いで目の前の仕事に励んだ。

中枢で見えた船の真実

船に乗り込んでから10年が経っていた。

やっと希望通りの中枢部隊、エンジンルームで働けることになった。

まさに船の心臓とも呼べる部隊。

ここで仕事をすれば船の動かし方が分かる。そして船が沈まないように自分が舵取りをするんだ。

でも現実は想定とは違った。

実際にエンジンを見たら、それは時代遅れの代物。さらに構造が複雑すぎて、どこから手を付けていいのか全くわからない。

そして何より、エンジン部という「花形部隊」で働く人たち。

一見みな優秀そうなのだが、全員が上の顔色を伺っている。

船長や幹部が何を考えているか。何を欲しているか。それが思考のすべての土台なのだ。

上に気に入られれば、そのまま幹部に引っ張り上げられる。

無論、船長が無視している問題をわざわざ指摘して改革しようとする人なんていない。

ボイラー室や甲板で働いているときには全く知らなかった事実。

自分の力不足だったことは否めない。

僕は、文字通り何もできなかった。

船を降りる決断。先輩乗組員からのアドバイス

この船にこれ以上乗り続けていたら、他の船では生きられなくなりそうだ。

だったら、いっそのこと降りてしまおう。

先は長いし、海は広い。

10年乗ったこの船に、感謝はしている。

でも、未練はなかった。

結局僕は、別の船に乗り換える決断をした。

小型だけどスピードの速い、別の船。

『こんな大型船の安定を捨てるなんて、もったいない』

『あんな小型船、すぐ沈むぞ』

先輩乗組員からはこう言われた。

別に自信があったわけではない。

でも、僕は楽観的だった。

これからは船が大きいか小さいかなんて関係ない。

どんな船でも漕げる力、最悪船がなくても泳げる力。

こっちの方が重要だ。

だったら、気の赴くままに動いてみよう。

大型船を降りて失ったものと得たもの

世間で言うところの「安定」はなくなったのかもしれない。

僕が乗り換えた船は小型ながらも超高速で大海を駆け抜ける船。

荒波での揺れは半端ない。明日沈むかも知れない恐怖もある。

でも、小型船だからこそ水面に近く波の状況はよく分かる。

乗組員の関係はフラットだ。上下関係を気にしている暇はない。

船自体の安定性はないかもしれない。でも、自分で船を漕ぐ力は確実に強まっている。

船がなくても自分で泳げる力があることも知ったのも良い発見だ。

本当の安定は、乗っている船の大きさや実績がもたらすのではない。

どんな荒波が来ても、自分自身で行く先をコントロールできる力を持つこと。

それが本当の安定だ。

この海での針路は、自分で決める。

そんな人生の主導権を取り戻したとき、僕は本当の安定を手にしたと言えるのだろう。

大型船を降りる決断が正しかったかなんて分からない。

でもひとつ言えるのは、僕はこの決断を一秒も後悔したことはない。

「依存」と「安定」は真逆に位置する

大型船に乗っていること自体が悪だと言いたいわけではない。

小型船に乗り換えて溺れる人もたくさんいる。

船の大きさは本来関係ない。

「いざというときに自分が大海で生きていけるか?」

こんな荒波ばかりの時代では、常にそんなことを考えないといけない。

60歳で陸に上がって悠々自適・・・なんて世界はもうどこにもない。

少なくとも『大型船に乗っているから、将来のことは心配ない』

これはただの思考停止だ。

乗っている船に依存することほど、不安定な人生はない。

すぐに船を乗り換えなくても、海の状況や他の船の動向を知ることはいくらでもできる。

気付いたときにはもう遅い、なんてことにならないように。

受け入れたくない現実からは目を背けない方がいい。

(終)

※この物語はフィクションです。

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針鼠(hari)
【Twitterフォロワー数15,000人】 転職市場を7年間研究し、従業員1万人大企業から未上場ベンチャーへ転職。 大企業とベンチャーでの経験から、楽しく働くための組織論や仕事術、さらに成功する転職法やキャリアの考え方を発信しています。経営学修士(MBA)
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